ひがしはら内科眼科クリニック
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目の病気
コンタクトレンズの合併症
コンタクトレンズの使用者は年々増加し、今では1800万人と推定されています。これは国民の1割を超す推定数であり、中でも、コンタクトレンズ利用者の7割がソフトコンタクトレンズと言われています。今やソフトコンタクトレンズは使い捨てが主流であり、気安さからつい友達どうしでカラーレンズの貸し借りをしたり、取り扱いについて安易になってしまったり、インターネットで購入したりということが、眼のトラブルを引き起こす大きな要因になっています。
①コンタクトレンズで目に障害がおこる理由
角膜は、体の中で血管のない透明な臓器です。表面から上皮、ボーマン膜、実質、デスメ膜、内皮の5層からなります(図1)。5層構造のうち、上皮は5~6層の細胞層から成り、皮膚と同様に新陳代謝を行って新しい細胞と入れかわります。上皮は角膜の最前面に位置して、異物や細菌などの外敵から目を守るバリアーの働きをもっています。一番内側の内皮細胞は年齢とともに減少し再生することはありません。角膜の栄養は、角膜の表面を覆う涙に溶け込んだ酸素から供給されます。コンタクトレンズを装用すると、裸眼のときよりも酸素の供給が下がり、慢性的な酸素不足に陥ると、上皮の新陳代謝が悪くなり、上皮のバリアー機能が弱体化して角膜にキズを生じやすくなります。また、酸素不足が長期間におよぶと内皮細胞が減少することもあります。したがって、角膜への酸素供給は、きちんとレンズが目にフィットして涙液交換が十分にできるか、あるいはレンズ素材自体が酸素を通す材質であるか、レンズの汚れがないことが重要になります。
②コンタクトレンズ合併症
ⅰ)角膜のキズ(点状表層角膜症)
点状表層角膜症はもっとも多くみられるコンタクトレンズによる角膜障害で、角膜上皮の再表層の細胞が数個単位で脱落した状態をいいます。主にレンズの長時間装用による酸素不足や、コンタクトレンズの汚れが原因となって生じることが多いです。稀にケア用品による薬剤毒性によって発生することもあります。
図2は定期検診を受けずに、カラーコンタクトレンズを長時間装用していたケースで、びまん性に点状表層角膜症を認めた症例です。目に障害が生じても、ハードコンタクトレンズでは多少の違和感を感じるために早期に異常を自覚できますが、ソフトコンタクトレンズでは自覚症状が乏しいので、久しぶりに定期受診した際に見つかることがよくあります。治療はコンタクトレンズの装用を中止し、点眼を行いますが、治るのに数カ月を要することもあります。
ⅱ)角膜上皮のびらん
角膜上皮の一部あるいは全層がはがれた状態。コンタクトレンズ装脱時の機械的な刺激、レンズ下への異物の混入、レンズのフィッティング不良などが原因になります。特にソフトコンタクトレンズでは、無理な連続装用など慢性的な酸素不足が持続して、角膜中央に大きな上皮びらんを突然に生じることがあります(図3)。通常、強い痛みと充血を伴いますが、ソフトレンズの場合はハードレンズよりも痛みを感じにくく、気付かないままに重症化することがあります。
ⅲ)角膜潰瘍、細菌性角膜潰瘍
上皮びらんが伸展して欠損がボーマン膜より深く実質まで及んだ状態。コンタクトレンズの装用による酸素不足から上皮障害を生じ、そこに細菌などが感染して潰瘍に至ります。コンタクトレンズに関連した感染性の角膜潰瘍は、角膜中央部に生じやすく(図4)、潰瘍が治っても白い混濁が残ってしまうために視力障害の原因となります。ウイルス性では単純ヘルペスによるものが多いです。単純ヘルペスの場合は、過去に再発を繰り返していることが多く、その既往がある人はコンタクトレンズ装用はお勧めできません。通常、激しい眼痛や充血、流涙といった強い自覚症状が出ます。
ⅳ)角膜浸潤
コンタクトレンズに付着した細菌の外毒素により、アレルギー反応が惹起されて角膜周辺の上皮に白い円形~円弧状の炎症性の混濁を生じた状態です(図5)。コンタクトレンズ装用時の異物感や角膜浸潤の部位に一致して白目に充血を伴います。治療は、コンタクトレンズ装用の中止と、抗菌薬および弱いステロイド点眼で奏功しますが、治療後も淡い混濁が残ります。病変部が角膜周辺部なので視力にはあまり影響しないことが多いです。
ⅴ)アカントアメーバ角膜炎
アカントアメーバは池や沼に生息する原生動物であり、水道水にも含まれます。井戸水や水道水でレンズを洗浄・保存して、保存液中に細菌が混在するとき、その細菌を餌としてアカントアメーバが繁殖します。コンタクトレンズ装用者に角膜感染症が生じるのは、慢性的な酸素不足による角膜上皮障害と、汚染されたレンズを目に持ち込む、2つの条件が成立したときです。
アカントアメーバ角膜炎は、感染初期から時間経過とともに病態が変化するのが特徴です。また、初期はヘルペス感染と紛らわしく診断がとても難しいです。強い痛みを伴うのも特徴の一つで、進行すると強い角膜混濁を生じたり(図6)、角膜に穴があいて失明に至ることもあります。診断は病変部を削り取ってアカントアメーバのシストを確認する、PCR法などを活用します。治療は抗真菌薬の点眼・点滴とともに、消毒剤であるクロルヘキシジンやPHMBを治療用に調整して用います。診断・治療は非常に難しく、高度な知識と経験が必要になるため、角膜専門医に紹介しなければなりません。
ⅵ)巨大乳頭性結膜炎
コンタクトレンズに付着した変性タンパクが原因となる、一種のアレルギー性結膜炎。上まぶたの裏の結膜に直径1ミリ以上の凸凹が多数できます(図7)。ソフトコンタクトレンズ装用者に多いですが、ハードコンタクトレンズで生じることもあります。対策は、徹底したレンズケアと、レンズ素材の見直し(1日使い捨てレンズへの変更や、タンパク汚れが付着しにくい素材への変更など)とともに、抗アレルギー点眼薬の併用が必要です。レンズ装用中にゴロゴロする、レンズが上方へずれやすい、充血やメヤニ、痒みを伴うようであれば眼科医へ受診をしてください。
ⅶ)角膜内への新生血管の侵入
コンタクトレンズ装用による慢性的な酸素不足が原因となり、結膜から角膜へ血管が伸びてきた状態(図8)。酸素を透過しない素材のハードを長期間装用した人、ソフトレンズを装用したままで就寝するなど連続装用した場合に起こりやすいです。自覚症状がないので、久しぶりに眼科受診した患者に発見されます。角膜の中央近くまで侵入した場合は視力に影響することもあります。いったん入った血管はもとに戻らないため、酸素の透過性の高いレンズ素材へ変更する、無理な連続装用を中止するなどの対策が必要です。
③コンタクトレンズ合併症を予防するには
コンタクトレンズによる目のトラブルを予防するには何よりも定期検診が大切です。合併症の中でも、特に重篤なものが感染症であり、対応が遅れると失明の恐れがあります。近年は子どもの近視人口の増加により、コンタクトレンズの装用開始が低年齢化していますので、装用する本人だけでなく、家族もコンタクトレンズ装用のメリット、デメリットを知って安全・快適なコンタクトレンズ装用ができるよう考えなくてはいけません。
ソフトコンタクトレンズ用消毒剤にはコンタクトレンズ用消毒液(MPS)、過酸化水素水、ヨード剤の3種類がありますが、いずれの製品でも誤った使い方をすると、消毒力が低下してアカントアメーバ角膜炎のみならず、さまざまな角膜感染症を招きます。問題は消毒剤にあるのではなく、むしろ使用方法にあると考えます。平成21年12月16日公表の国民生活センターの調査でも、ソフトコンタクトレンズ用消毒剤の使い方に問題のある人が多く、また、コンタクトレンズ装用による目のトラブルを経験していたにもかかわらず、定期的に検査を受けていない人が調査対象の約半数を占めたと報告されています。医師の指導もなく、また使用説明書を読まないために、誤った使用方法を正しい方法と思いこんでいる人の数は、実際の現場では決して少なくありません。強い消毒力をもったソフトコンタクトレンズ用消毒剤においても、コンタクトレンズ、レンズケース、レンズケア製品のボトルの汚染を完全になくすことは困難です。各コンタクトレンズユーザーがコンタクトレンズによるトラブルを招かないために、次に示す注意点を守り、コンタクトレンズとレンズケースを常に清潔に保っていただきたいと思います。
コンタクトレンズの正しいケアの仕方
- コンタクトレンズを使用する際には、眼科専門医の処方と指導を受け、定期的に検査を受けよう
- 手を十分に石けんで洗ってからコンタクトレンズを取り扱う
- コンタクトレンズをはずした後に、必ずこすり洗いを行い、十分にすすぐ
- レンズケースは毎日しっかり洗い、自然乾燥させる
- レンズケース内の消毒液は毎日新しいものに交換する
- レンズケースを定期的に新しいものに交換する
- レンズケア用品は開封後すみやかに使う(長期間の使用は危険であり、できれば1か月以内に使い切る)
- コンタクトレンズ、レンズケア用品は清潔な場所に保管する
- コンタクトレンズのすすぎは、こすり洗いの後だけではなく、装用直前にもう一度、レンズケースから取り出した後に、十分量の消毒液あるいは保存液(すすぎ液)ですすぐ
こすり洗いの手順
①ソフトコンタクトレンズ
- 手をよく洗い、清潔にしてからコンタクトレンズを目からはずして保存液ですすぐ
- 利き手と反対の手のひらの上にレンズをのせ、クリーナーや消毒液を数滴落とす
- 利き手の人指し指の腹をレンズに当て、軽く押さえながら、手のひらでレンズを一定方向にやさしく動かし、表面を20~30回こする(円を描くようにこすると、レンズが破損する恐れがある)
- ひっくり返して反対側も同じように洗う
- 最後に保存液か消毒液でよくすすぐ
②ハードコンタクトレンズ
- 手をよく洗い、清潔にしてからコンタクトレンズを目からはずし、レンズを水道水かすすぎ液ですすぐ
- 利き手と反対の手のひらの上にレンズの内側を上にしてのせ、クリーナーを数滴落とす
- 利き手の人指し指の腹をレンズの内側に当て、軽く押さえながら、手のひらでの上でレンズを前後左右に動かしながら泡をたてるようにやさしく約30回こする
- レンズを水道水かすすぎ液ですすぐ
- タンパク除去剤を定期的に使用する、汚れが強い場合は研磨剤入りのクリーナーを用いる(ただし、メーカーによって使用できないものもあります)