ひがしはら内科眼科クリニック
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目の病気
円錐角膜
①円錐角膜とは
円錐角膜とは、角膜の中央あたりが薄くなり、目の内圧に抗しきれずに薄くなった角膜が前方へ突出する進行性の病気です(図1)。角膜が突出するので、メガネやソフトコンタクトレンズでは矯正できない強い乱視が生じます。両眼に生じることが多いですが、片方だけの場合もあります。また、左右で円錐角膜の重症度が大きく異なる方もおられます。思春期頃に発症するのが一般的で、20歳代までは病気が進行しやすいです。30歳以上になると進行はほぼなくなると考えられています。1卵生双生児あるいは家族内での発症例があり、昔から遺伝的なことが示唆されていますが、未だにはっきりした原因は不明です。また、アトピー性皮膚炎やアレルギー結膜炎を約20%に合併するとされ、目を強く擦ることによる、角膜への機械的な刺激が発症や進行に影響すると考えられています。京都府立医大眼科の円錐角膜外来を受診される患者さん173人に対して、「眼をよく擦ることがあるか?」とアンケート調査すると、約60%の患者さんが「ある」と答えられました(図2)。
②円錐角膜の症状
ごく初期の円錐角膜であれば、メガネやソフトコンタクトレンズで矯正できるため、円錐角膜に気付いていない方もおられます。また、若年者ではピントを合わせる力(調節力)が旺盛なため、円錐角膜による乱視があっても視力障害を自覚しないこともあります。たいていは20~30歳を過ぎる年齢になってから、調節力の低下に伴って少しずつ視力低下を自覚するようになり、眼科を受診して円錐角膜と診断されることが多いです。
この病気は、角膜が変形するだけでなく、角膜の突出部に淡い混濁を生じるため、眩しさを生じやすいです(図3)。治療は次に解説するように、ハードコンタクトレンズの装用になりますが、角膜の突出部とレンズが慢性的に擦れるために、角膜にアミロイドというタンパク質が沈着して、痛みを生じてコンタクトレンズの装用が難しくなる人がいます。
円錐角膜がかなり進行すると、角膜の裏側にある膜(デスメ膜)が破れて、房水(目の中で産生される水)が角膜内に入り込む結果、角膜が白く腫れあがることがあります(図4;急性水腫)。急性水腫はおおむね2~3カ月かけてデスメ膜が修復されて自然に治りますが、角膜に強い混濁を残したり、角膜後面の不正が強くなって、その後、視力不良になるケースもあります。しかし、中には、角膜が瘢痕化することで角膜前面の形状が改善し、急性水腫の発症前よりもハードコンタクトレンズ装用が上手くいくこともあります。また、デスメ膜が大きく破裂する場合、治るまでに半年以上の時間を要するケースもあります。
③円錐角膜の診断
軽症の円錐角膜では、通常、眼科診療で用いる細隙灯顕微鏡で診断することはできません。進行例になると、角膜中央部が薄くなり混濁を生じますので顕微鏡でも発見できます。確定診断には角膜形状解析(図5)が有用です。この装置はいくつかのメーカーから発売されています。当院にはサンコンタクトレンズ社製のPR-8000を設置しており、円錐角膜の診断と重症度の判定、ハードコンタクトレンズのデザインの選択に非常に役立っています。
④円錐角膜の治療
ⅰ)ハードコンタクトレンズ
治療はハードコンタクトレンズの装用が第一選択となります。変形した角膜とレンズの間に涙がたまり、強い不正乱視を矯正することができます。円錐角膜が軽度~中等度までの症例には、普通の球面ハードコンタクトレンズをフラットメソッド法で処方しています。図6は円錐角膜の患者さんにフラットメソッド法で球面ハードコンタクトレンズを処方した写真です(横から撮影)。角膜の中央が突出しているために、中央部がレンズにタッチして、レンズの下方は浮いているのが分かります。
重症になると、レンズの装用が不安定になりやすいので円錐角膜用の多段階カーブレンズを処方します。円錐角膜は、一人一人お顔が違うように、その形状も大きく異なります。ハードコンタクトレンズを切削・研磨して角膜形状にデザインをあわせることで、良好な視力だけでなく、痛みのない長時間の装用が得られるよう目指しています。
ⅱ)角膜クロスリンキング
近年、円錐角膜の進行予防に新しい治療法が登場しました。角膜クロスリンキングとは、角膜にリボフラビン(ビタミンB2)を浸透させ370nmの長波長紫外線を30分間照射して、角膜に硬さをもたせることで円錐角膜の進行を予防する治療法です(図7)。リボフラビンが光感受性物質として働き、紫外線照射によって発生する活性酸素群の影響で角膜実質を構成するコラーゲン線維の架橋を高め、角膜実質の強度を高めることができます。これにより、柔らかい組織をより硬い組織に変えることができ、円錐角膜の進行を止めるだけでなく、中には角膜形状が少しフラット化して視力もわずかに改善する効果があるとされます。角膜上皮をはいだ後に紫外線を照射しますが、紫外線による目の中への影響を防ぐため、450μm以上の角膜厚みがある方が適応になります。京都府立医大眼科およびバプテスト眼科クリニックでも2009年から角膜クロスリンキング治療を開始しています。
Riboflavin/ultraviolet-a-induced collagen crosslinking for the treatment of keratoconus. Wollensak G, et al. AJO. 2003. 135; 620-627 より引用
ⅲ)角膜内リング
角膜内リングは、角膜の周辺部に作成したトンネルに、2枚のプラスチック製のリングを挿入します。その結果、リングが角膜を押し出す形となり、円錐状になった角膜を平坦化させることで近視や乱視が軽減するという外科治療法です。当初は近視治療用としてアメリカFDAから承認を受け、2004年には円錐角膜まで適応範囲が拡大されています。現在はフェムトセカンドレーザーを用いてトンネル作成が行われており、20秒ほどで角膜内にトンネルを作成できますので、安全性も向上しています。適応は、ハードコンタクトレンズの装用が難しい軽度円錐角膜、LASIK術後のkeratectasiaなどで、リングを挿入する角膜部位は400μm以上の厚みが必要です。
※角膜クロスリンキング、角膜内リングについては、十分な検査のもと適応があるか判定しております。手術について詳しく知りたい方は、京都府立医大眼科円錐角膜外来(毎週水曜日)を受診してください。
ⅳ)全層角膜移植術
円錐角膜が進行して最重症になると、ハードコンタクトレンズで視力がでなくなります。たとえレンズが装用できたとしても、角膜の突出が強いために安定したレンズの装用が困難になり、角膜移植術が必要になります。
手術では角膜中央部を直径7mm前後で打ち抜き、ドナー角膜を移植します。細かく糸で縫い合わせるため、移植後は不正乱視が生じます。術後の合併症がなければ、早くて半年~1年で糸を部分的に抜糸し、再びハードコンタクトレンズを装用します(図8)。
一般的には、円錐角膜に対する角膜移植の成績は良好です。ただし、アトピー性皮膚炎を伴う場合、術後に強い炎症がおこったり、糸が緩んだり、早期に拒絶反応を生じることが知られています。術後は感染や拒絶反応を予防するために、点眼治療を継続し定期的な通院が必要です。