ひがしはら内科眼科クリニック
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目の病気
近視の話
近年、子どもの近視の割合が増加しています。図1は、文部科学省の学校保健統計調査報告書(2005年)より抜粋したグラフで、1960年から2005年までの、裸眼視力(メガネで矯正しない視力)1.0未満の割合の 年次推移を示しています。1970年代後半から、11歳~15歳の若年者において、 裸眼視力1.0未満の割合が増加していることが分かります。 特に若年者において近視の割合は増加しているのが分かります。
①物が見えるしくみ
目の中に入ってきた映像は、黒目(角膜)と目の中のレンズ(水晶体)で屈折されて、目の奥(網膜)の中心部に映し出されます。水晶体は毛様体という筋肉の働きで分厚くなったり薄くなったりしてピントを合わせるよう働きます。また、茶目(虹彩)の中央には光がとおる穴(瞳孔)があり、大きくなったり小さくなったりして、目の中に入る光の量を加減します。
②目の屈折
正視では遠くを見たときに、その映像は角膜と水晶体で屈折されて網膜にピントが合います。近いところを見るときには、点線のように水晶体がふくらんで網膜にピントを合わせます。正視は、メガネがなくても遠近ともによく見える状態です。
近視は、目の奥行きが長いか(軸性近視)、角膜と水晶体の屈折する力が強すぎるか(屈折性近視)のどちらかで生じます。目の奥行きが長いと、遠くを見たときに水晶体を薄くしても網膜にピントを合わず、網膜より手前でピントが合います。近視の大部分は軸性近視と言われています。一方、角膜と水晶体の屈折力が強い場合にも、遠くを見たときに網膜上にピントが合いません。
遠視は眼軸が短い、あるいは、水晶体の屈折力が弱いために、網膜にピントが合わせることができません。軽い遠視であれば水晶体を厚くしてピントを網膜に合わせることができますが、目を休めると(調節しないと)網膜の後ろにピントが合ってしまいます。年齢が若いうちは調節力が旺盛なので、軽度の遠視でも問題なく遠近ともに見ることができます。しかし、近いところを見る場合には、さらに多くの調節力が必要になりますので、中等度以上の遠視があれば、年齢が若くても遠近ともにピントが合わせることができず、目の疲労だけでなく、視力の発達が悪くなって弱視の原因にもなります。集中力がない、落ち着きがない、と思われている子どもさんの中に、遠視が原因になっているケースもあります。
③いつまで近視が進行するのか?
赤ちゃんは体が小さく、眼球も小さいので遠視の状態です。しかし、角膜と水晶体の調節力が非常に強いために遠視をカバーできます。体が成長するにつれて眼軸も伸びていきますが、角膜・水晶体の屈折力の変化と眼軸がバランスを保って成長すると正視を維持できます。しかし、遺伝や環境の影響などでこれらのバランスが崩れ、眼軸長が強く伸びてしまうと軸性近視になるのです。
図2は文科省のHPからのデータを抜粋したもので、H22年の健康教育に関する統計調査結果です。近視は小学校~中学校と成長するにつれ、その割合は増加していきます。
注目したいのは、濃いグレーで示す0.3未満の割合で、中高生で20%強を占めてくるのが分かります。 ただ、高校生になると、全体として近視の割合は頭打ちになっています。 このように、おおむね体の成長が止まる頃には近視の進行も止まると考えられています。
④若年者の近視が増加する理由
小児の近視進行に関する、海外のコホート研究が複数報告されています。いくつか紹介すると、両親が近視(遺伝の影響)、多くの時間を勉強や読書に費やす(近業作業の影響)、IQの高さ、が近視進行の誘因として挙げられています。また、昔から「屋外で遊ぶといい」「遠くの景色を見るといい」と言われていますが、実際に、屋外活動量の多い児童の近視率が一番低いという報告もあります。これは、 従来から言われているような調節の緩和作用だけでなく、屋外に出て強い日差しをあびることで瞳孔(光が入るところ)が小さくなって、網膜上にクリアな像が結ばれるから、あるいは、日差しによってドーパミンという神経伝達物質の分泌がさかんになることで、眼軸長伸展が抑制されるのでは?と考えられています。 最近の子供たちは、学校でもパソコンを使用した授業があり、日常生活にも携帯型ゲームや携帯電話などが広く普及し、近くで物を見る機会、見る時間が増えています。そのために近視が進行していると考えられています。
⑤近視進行を抑制するためには
子供は水晶体の調節力が旺盛ですが、正視と近視の子供では調節力に違いがあることが報告されています。通常、子供は目の調節力が強く働くため、非常に近い距離でもピントを合わせることができます。しかし、近視の子供に眼鏡による完全矯正を行って近業をさせると、正視の子供と比べて、近視の子供では調節不足になって網膜の周辺部に遠視性のボケ像が生じやすいことが報告されました。このことは、近視の子供のさらなる眼軸長伸展を助長する可能性を示唆しています。したがって、近視進行(眼軸長伸展)を予防するためには、周辺網膜のボケ像を減らすために、子どもでも累進屈折眼鏡を装用させる、二重焦点のコンタクトレンズを装用するといった試みが世界的になされています。日本でも子どもの近視抑制に関する臨床研究が始まっており、その結果が待たれるところです。